
WTI(原油先物価格)が70ドル台に上昇し、ブレントも80ドル台に乗せてきた。
その背景にトランプの制裁に伴いイラン原油が国際市場から消え、ベネズエラの原油生産も落ちているところに、今月OPECが減産の継続を決めたことがある。
これによって原油需給のタイト化を懸念して先物が買われ、WTIやブレントがこのところの持ち合い上限をブレークした。
でも、OECD石油在庫はまだ28億バレルとピーク31億バレルからは減少したものの、2012-13年の24-27億バレル水準より多い在庫が残っているので、供給不安は想定しなくていい。
ガソリン価格がちょっと上がりそうなぐらいで大騒ぎするような問題にはならない。
それよりポイントは、この原油価格の水準だと中東産油国に経常黒字が溜まってくることだ。
特に重要なのはソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)を持つ産油国の経常収支だが、下の表の通り、経常収支/GDP比率が急速に改善してくることだ。
2018年の数字は4月までのもので、その後の動きを見ればさらに大幅に経常黒字が増えてくると思われる。
2012ー13年のような世界の資金を産油国が吸い上げてしまったような状況にはないが、着実に経常黒字が溜まり始めている。
SWFを持つ産油国の経常収支/GDP比率(%)
2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | |
サウジアラビア | 9.75% | -8.67 | -3.16 | 2.67 | 5.46 |
クウェート | 23.45% | 3.50 | -4.51 | 1.97 | 4.79 |
UAE | 13.51% | 4.90 | 1.40 | 4.67 | 5.31 |
では産油国はどう動くだろうか?
ワシの経験では、他のSWFに比べてサウジアラビアのSAMAが最も敏感に資金を動かす。
SAMAはSWFであると同時に中央銀行であり年金機構でもあるからだ。
経常収支と外貨準備を管理する責任を持つと同時に、中央銀行で余った資金をSWFで運用する責任も持っているので迅速な対応ができる。
運用会社のCIOの時に原油価格が大暴落したことがあったが、SAMAは毎年のように運用資金を引き揚げたのを鮮明に覚えている。
SAMAは現在60兆円程度の資金を運用しているが、ここもとの経常黒字の急速な増加で運用資金が増えている可能性が高い。
クウェートKIAとアブダビADIA(UAEで最大のSWF)は財務省の傘下にある運用専門会社なので、財務省に余剰資金が溜まり配分を受けるまで、通常タイムラグがある。
でも経常黒字の蓄積とSWFの運用資金は連動するので、黒字が溜まれば運用資金もいずれ増える。
SWFから資金配分を受けた運用会社は、まず先物でベータを確保するから証券取引所には最初に先物買い注文を入れる、その後、先物を現物株に置き換えるEFP(Exchange for physical)という取引を行う場合が多い。
もちろん、トランジッションと呼ばれる現物移管もあるが、これはマネージャーの変更時に使われる場合が多いので、資金純増の場合は現金での配分が普通だろう。
東証では9月後半外人の先物買いが顕著で、たいていの株式評論家は空売りの買い戻しで上昇したとコメントするが・・・???
SWFや他の長期投資家が動いたかもしれない。
少なくともSWFが買い出す条件は整ったように思う。

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