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運用関係者が日常よく使う言葉に「リスクオン」「リスクオフ」がある。
これは簡単な言葉で市場の状態を表すことができるから、日常会話では使いやすい。
「リスクオン」とは、ポートフォリオのリスクを高める動きで、通常、株式の上昇、ドル/円の上昇(円安)、金の下落、長期債の価格上昇(利回りは低下)などが同時に起こる現象を指している。
「リスクオフ」はその逆で、株式の下落、ドル/円の下落(円高)、金の上昇、長期債の価格下落(利回りの上昇)が同時に起こる現象のことだ。
「リスクオフ」になり株価が下落するとポートフォリオのボラティリティが拡大するので、投資家は、ボラティリティの低いアセット(長期債券など)や株式価格との相関性の低い(金や商品など)に資金を移してポートフォリオのボラティリティを抑えるような行動に出る。
また、円は経済ファンダメンタルが安定した通貨として「リスクオフ」の市場では選好されドル安/円高になりやすいし、そのドル安が金高と商品高を誘発する。
これが「リスクオフ」を起こす市場メカニズムだ。

こうした現象が大きく市場にあらわれる時は機関投資家や年金などの巨大投資家がアセットアロケーションの変更している可能性がある。
リスクパリティのようなリスクを一定にする機械的運用だけでなく、アクティブ運用でもリスク水準は意識され、日本の年金運用でもリスクが高まる局面では日本株と外国株のウェートをさげ、日本債券を引上げ、外国債券は為替の動きでウェートを変えることは普通に行われている。
価格下落の恐怖心理で本能的にボラティリティの高い資産から低い資産に動かす市場参加者もいるし、もっと長期的視点でアセットアロケーションを変更する機関投資家もいる。
彼らの動きが市場では「リスクオン」「リスクオフ」という変動を引き起こす。

ところが、この10月の株価の急落は、今までとはちょっと違い単純な「リスクオフ」とは異なる様相を見せている。
日経平均は今週末までで12%の下落を記録し、今年1月にトランプが貿易戦争を仕掛けた下落相場の14%に近づいてきた。
しかし、今回の株価下落ではこの「リスクオフ」という現象があまり見られない、あるいはごく限られた範囲でしか見られない。
1月の下落時は為替は急速に円高になり、ドル/円が113円台から104円台まで9%の円高となったが、今回は113円台から111円台までの円高にとどまっている。
しかも今回は他のアセット価格の動きが鈍くドル安もあまり進まなかったので金や他の商品もあまり買われなかったし、米10年債利回りも3.2%から3.1%とあまり変化していない。

これは何を意味しているのだろうか?
いくつかの可能性が考えられる。
まず一つは、株式を売却した資金が待機資金としてキャッシュ保有されている可能性だ。
通常、機関投資家の運用ではフルインベストメントが基本なので、たとえば、日本株を売却したらその資金をどこかに移す必要があるので、アセットクラス間の資金移動が起こってしまう。
もし、アセットクラス間の移動がないとしたら、株式の売却代金がキャッシュで保有されていることになり、待機資金として次の動きの準備になっているという可能性がある。

もう一つは、この下落が短期トレーディングによって引き起こされた可能性だ。
自己勘定部門のトレーダー、アルゴリズムトレーダー、トレーディング中心のヘッジファンド・マネージャーなどが売り仕掛けを積極的に行った場合、先物やオプションなどのデリバティブを総動員してショートポジションを作るので、他の資産へ資金が移動することはない。
しかも、デリバティブを使って高いレバレッジを取るので、元の資金が小さくでも大きなショートポジションを作れる。
株式市場でこうした高レバレッジのショートをするだけなので、他の資産価格には影響しにくい。

今現在では推測の域を出ないけど、いずれ買い戻しが入る局面になり、この10月の急落の主役がどうやって株価の急落を誘発したかが分かってくるだろう。
そのとき、通常の弱気相場の中で起こる「資産リバランスによる資産移動」や「安全資産への移動=質への逃避」などが見られていない理由が明確になってくると思われる。

最近の調整局面の最初の2か月の各資産の値動き
列1 Jul-15 Sep-15 変化 Jan-18 Mar-18 変化2 Sep-18 Oct-18 変化3
NYダウ 17689 16248 -8% 26149 24103 -8% 26458 24688 -7%
日経平均 20585 17388 -16% 23098 21454 -7% 24120 21184 -12%
ユーロ50 3600 3100 -14% 3609 3361 -7% 3399 3134 -8%
上海 3663 3052 -17% 3480 3168 -9% 2821 2598 -8%
Yen/$ 123.24 120.28 -2% 110.77 106 -4% 111.94 111.91 0%
Euro/Yen 135.51 134.97 0% 135.07 130.8 -3% 130.53 127.6 -2%
原油WTI 50.9 45.45 -11% 63.67 62.76 -1% 70.21 67.59 -4%
1128 1124 0% 1331 1324 -1% 1198 1235 3%
米10年債 2.26 2.04 -10% 2.7 2.74 1% 3.07 3.08 0%
月末値の比較で、実際のピークーボトムとは異なる。直近10月は10/25引値。



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